東京地方裁判所 平成7年(ワ)11362号 判決 1998年1月23日
神奈川県伊勢原市石田二〇〇番地
原告
株式会社アマダ
右代表者代表取締役
上田信之
右訴訟代理人弁護士
野上邦五郎
同
杉本進介
同
冨永博之
右補佐人弁理士
三好秀和
同
岩崎幸邦
同
伊藤正和
同
高松俊雄
東京都渋谷区道玄坂一丁目一五番三号
プリメーラ道玄坂一一〇五号室
被告
東海工機株式会社
右代表者代表取締役
小林正
右訴訟代理人弁護士
三宅正雄
同
野口政幹
右補佐人弁理士
永田浩一
主文
一 被告は、原告に対し、金二三七六万三五〇〇円及びこれに対する平成七年六月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
主文同旨。
第二 事案の概要
本件は、溶接用ポジショナーに関する実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その登録にかかる考案を「本件考案」という。)を有する原告が、被告は本件考案の技術的範囲に属する別紙物件目録(一)記載のコア用万能反転機(「イ号物件」)及び同目録(二)記載のコア用万能反転機(「ロ号物件」)を製造販売したとして、被告に対し、本件実用新案権の侵害を理由とする損害の賠償を求めた事案である。
被告は、イ号物件及びロ号物件が本件考案の技術的範囲に属することは認めながらも、損害額(実施料率の相当性)を争っている。
一 争いのない事実
1 原告は、次の実用新案権を有している。
考案の名称 溶接用ポジショナー
特許出願日 昭和五七年六月八日
実用新案登録出願に出願変更
実用新案出願日 平成一年一月一八日
実用新案出願公告日 平成五年一一月八日(実公平五-四三九九六号)
実用新案登録日 平成六年七月六日
実用新案登録番号 実用新案登録第二〇二五二二〇号
2 本件実用新案権の登録請求の範囲は次のとおりである。
ベース13に対し水平軸心回りに揺動可能に設けた揺動フレーム17に、上記水平軸心と直交する方向の軸心回りに回動可能の回動部材11を設け、この回動部材11の偏心位置に設けた延伸部9を、回動部材11の軸方向に延伸して設け、この延伸部9の先端部に、延伸部9の延伸方向と直交する方向の軸心回りに回動可能の材料支持部7を設けてなることを特徴とする溶接用ポジショナー。
3 被告は、別紙「イ号物件及びロ号物件の販売実績一覧表」記載のとおりイ号物件及びロ号物件を製造販売し、その売上額合計は四億七五二七万円である。
4 イ号物件及びロ号物件は、ともに本件考案の技術的範囲に属する。
二 争点(損害額)
1 原告の主張
イ号物件及びロ号物件はともに溶接に関する機械であるが、財団法人発明協会発行「実施料率」によると、このような機械については、その販売価格の五パーセントが最も頻度の高い実施料率となっている。被告がイ号物件及びロ号物件の販売によって得た金額は、四億七五二七万円であるから、本件考案の実施料として二三七六万三五〇〇円が相当である。
2 被告の反論
実施料率は、当該技術の難易、代替可能性の有無、契約各当事者の技術に対する評価等、多種の要素を勘案した上で合意されるものであって、単に統計的な数字で実施料率の妥当性を主張することは正しくない。本件考案は、さして難度の高いものではなく、代替可能な技術も存し、原告自身が本件考案の実施品の製造販売に力を入れているものではないこと等を考慮すれば、本件における実施料率は高くても二パーセント程度が相当である。
第三 当裁判所の判断
一1 前記争いのない事実によれば、被告がイ号物件及びロ号物件を製造販売したことは本件実用新案権を侵害するものであり、右侵害行為につき被告には過失があったものと推定されるから、被告は、本件の実用新案出願公告のあった平成五年一一月八日以降のイ号物件及びロ号物件の製造販売により原告が蒙った損害を賠償すべき責任がある(平成五年法律第二六号による改正前の実用新案法三〇条、特許法一〇三条、右改正前の実用新案法一二条一項及び二項、民法七〇九条、右改正法附則四条)。
2 甲八の1ないし4(財団法人発明協会発行の「実施料率(第四版)」)及び弁論の全趣旨によれば、右協会研究所が調査収集し、解析した産業分野毎の実施料率についての調査結果では、本件考案は、金属加工機械の技術分野に属するものと解されるところ、昭和四三年から平成三年の全調査期間(昭和五三年から昭和六二年を除く)における右分野の実施契約においては、イニシャル・ペイメントの有無を問わず、五パーセントの実施料率を定めた契約が最も多いことが認められる。もっとも、本件は平成五年一一月八日以降の被告の行為が問題とされている事案であるから、右資料のうち本件に近接した時期の資料である昭和六三年から平成三年にかけて締結された契約の調査結果をみると、右分野における実施料率の平均値は三・七五パーセントないし四・二二パーセントであり、イニシャル・ペイメントのない場合の最頻値は五パーセントではないが、右期間のイニシャル・ペイメントのない場合についてのデータ数は少なく、平均値に必ずしもとらわれる必要性はないと考えられるし、後者については最頻値件数と五パーセントの件数とは一件の差に過ぎない。右調査結果は、当事者間の合意によって定められる実施料率であるが、ここで問題とすべきは、被告の違法行為による損害の額として、登録実用新案の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する金銭の額の算定のための実施料率であるから、被告の指摘する実施料率の算定要素を考慮に入れても、実用新案法二九条二項にいう「登録実用新案の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」を算定するに用いる実施料率は、右資料における最頻値である五パーセントとするのが相当と解される。
3 被告は、イ号物件及びロ号物件を製造販売したことにより、合計四億七五二七万円の売上をあげているから、本件考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額は二三七六万三五〇〇円となり、これが原告の損害であると認められる。
二 よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 八木貴美子 裁判官 池田信彦)
物件目録(一)
一、 被告が製造販売していた「ヘラクスCT-1、同CT-1W、同CT-3、同CT-3W」と称するコア用万能反転機
物件の説明
本件物件は、略下向きに溶接を行うことのできるコア用万能反転機である。
本件物件は、本体フレーム13を備え、この本体フレーム13にはボス27を介して揺動フレーム17が揺動可能に支持されている。この揺動フレーム17を揺動するために、油圧シリンダなどの駆動装置35が設けられている。
前記揺動フレーム17には、前記ボス27と直交する方向の軸心回りに回動可能の旋回テーブル11が支持されていると共に、上記旋回テーブル11を回動するためのモータ43が設けてある。
前記旋回テーブル11の偏心した位置には、旋回テーブル11の軸方向にアーム9が設けてあり、このアーム9の先端部には、アーム9の延伸方向と直交する方向の軸心回りに回動可能の角型のターンテーブル7が設けてある。
図面の説明(図面は訴状添付図面を援用)
第1図 常態における本件物件の斜視図
第2図 本件物件における揺動フレームを適宜に揺動し、かつ旋回テーブルを適宜に回動した状態を示す斜視図
第3図 本件物件の一部を破断して示した側面図
図面番号の説明
7. 角型のターンテーブル
9. アーム
11. 旋回テーブル
13. 本体フレーム
17. 揺動フレーム
27. ボス
35. 駆動装置
43. モータ
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>
物件目録(二)
一、 被告が製造販売している「ヘラクスCT-1MD、1MDW、3MD、3MDW」と称するコア用万能反転機
物件の説明
本件物件は、下向きに溶接を行うことのできるコア用万能反転機である。
本件物件は、本体フレーム13を備え、この本体フレーム13はボス27を介して揺動フレーム17が揺動可能に支持されている。この揺動フレーム17を揺動するために、油圧シリンダなどの駆動装置35が設けられている。
前記揺動フレーム17には、前記ボス27と直交する方向の軸心回りに回動可能の旋回テーブル11が支持されていると共に、上記旋回テーブル11を回動するためのモータ43が設けてある。
前記旋回テーブル11の偏心した位置には、旋回テーブル11の軸方向と並行にアーム9が設けてあり、このアーム9の先端部には、アーム9の延伸方向と直交する方向の軸心回りに回動可能の丸型中空のテーブル7が設けてある。
図面の説明(図面は訴状添付図面を援用)
第1図 常態における本件物件の斜視図
第2図 本件物件における揺動フレームを適宜に揺動し、かつ旋回テーブルを適宜に回動した状態を示す斜視図
図面番号の説明
7. 丸型中空テーブル
9. アーム
11. 旋回テーブル
13. 本体フレーム
17. 揺動フレーム
27. ボス
35. 駆動装置
43. モータ
第1図
<省略>
第2図
<省略>
別紙
イ号物件及びロ号物件の販売実績一覧表
注記)平成5年は11月8日から12月末日まで
平成7年は1月1日から5月末日まで
<省略>